現代音楽はことばの要素を使うことで、音楽の難解さを親しみやすさへと変えることができるのかもしれません。生活と密着したテーマを盛り込み、問いかける興味深い作品があります。

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今回は少し風変わりな現代音楽をご紹介します。

オンドレイ・アダメク(Ondřej Adámek)の『回って止まって』(Ca tourne ça bloque)という作品です。2007~2008年に作られたばかりです。

楽器編成には10の古典楽器(フルート、イングリッシュ・ホルン、バスクラリネット、ファゴット、打楽器、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)に加えて、サンプラーを使用しています。サンプラーは音をつかまえて再生させることで音響的効果をもたらす電子機器です。

でも、サンプラー自体はスティーヴ・ライヒもはるか昔に使っていて、特に珍しいものではありません。では、何が凄いのか?実は、サンプラーのメッセージを最大限に活かした、「ユーモア」のセンスが凄いのです。

サンプラーがいきなり「いらっしゃいませ、こんばんわ~」で始まります。作品冒頭から目が点になってしまいます。

 


オンドレイ・アダメク「回って止まって」(阿部加奈子指揮トーキョー・アンサンナブル・ファクトリー)

外国の人が「日本で利用した店について」感想を述べています。


「店にお客さんが入ってくると、ベルが鳴って、店員が挨拶するんだ、いつもだぜ、信じてもらえないだろうけれど、彼らはベルに反応して毎回挨拶するんだ、まるでロボットみたいに・・・」



といった会話が飛び交います。ある意味、恐怖映画じみています(笑)。

確かにファミマやセブンイレブンなどのコンビニやスーパーでも、入店すると当たり前のように挨拶されています。外国では無愛想なのかなあ、と逆にびっくりする自分。

ある店では軍歌がずっと流れている、という件もあります。パチンコ屋さんでしょうか?

世の中には冷たく笑えないユーモアもあるけれど、アダメクのユーモアは暖かな部類に該当します。問題提起していても、揶揄しているのではない。日本人の自分自身も正直笑ってしまいました。

 

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『回って止まって』は「フランス人のギルバートさんとパスカルさん、そして日本人のマサコさんの3人の会話をもとに作られた作品」らしいです。

彼らの会話がサンプラーで加工され、楽器化しているのです。マサコさんって誰だろう?

(かつて湯浅譲二が『ヴォイセス・カミング』(湯浅譲二:ピアノ作曲集/テープ音楽集 [CD]所収)という、これもユニークなテープ音楽作品をつくっています。電話の「もしもし」を怒涛のように重ねたりする奇抜な作品です。ふと僕の脳裏でこの2作品のユーモアがつながってしまったのは、考えすぎでしょうか?)

 

サンプラーがラップのように親しみやすいせいか、バックで流れる現代音楽の難解さが中和されたようになって全然気になりません。現代的なギスギスした奏法を駆使しているにもかかわらずです。これがもしサンプラーなしの楽器編成だったとしたら、印象は大幅に変わるのではないでしょうか。

サンプラーには外国語も使われて録音されているので、YouTubeのような動画だと言葉の意味が字幕でダイレクトに伝わってきて、とても分かりやすいです。

アダメクは他の作品でエアーマシン(Airmachine)という独特な楽器を使い、音だけでなくプロセスを見るという視覚的要素をとりこんだ、パフォーマンスアートも開拓しています。

観客を楽しませようとする、微笑ましいアーティスト。1979年生まれのまだ37歳。これからが楽しみな作曲家ですね。